さまざまなジャンルの融合を目指して楽曲作りを行うアメリカのエクスペリメンタルバンド・バトルス。彼らの繰り出すボーダレスな音楽性は、多方面のジャンルから高い評判を得ており、当初はポストロックやプログレの要素が強かったものの、オリジナルアルバム「グロスドロップ」あたりからよりポップで視野が広まったような自由な音楽性へとシフトしています。2012年4月にはリミックスアルバム「ドロスグロップ」を発売しました。
デビューから数年のバトルスは実験的でありポストロックの要素にエレクトロを差し込むような形で、リズムに関しても変拍子を随所に使用するなどといったテイストを強く持っていました。現在ではあまり多用されていませんが、突然のリズムの変化によるうねりのような感覚もバトルスの魅力の1つです。
しかし、そのような混沌とした変化あるリズムは、もともと正確にリズムを刻める実力がないと成立しません。正確無比にリズムを刻むことができてこそ、崩したときに均整が取れるのであって、下手がただ崩しただけではそれはやはりただの下手にすぎないのです。
そのリズムにおいて、バトルスの楽曲のうねりある正確なテンポでドラムを叩くのがジョン・ステニアーです。彼の性格かつ緻密なドラムさばきは、細かく同ピッチで刻むときには寸分の狂いもなく、また変拍子の際には混乱しない程度にバランスよくパターンを崩すという高度な技が必要です。ジョンが刻むリズムはまさに正確無比であり、ファンの評判も非常に高いものとなっています。
また、そのプレイスタイルが豪快なのもジョンのドラムの魅力。上から叩くように激しく打つのにその音は繊細で、シンバルに関しては細かいビートを狂いなく打ち続けています。この正確さがバトルスのカオティックでエクスペリメンタルな音楽をきちんと統制の取れたものに仕上げているのであって、ただのごちゃまぜにならずに見事に1つの音楽として昇華させることが可能になっているのです。
そして、初めてジョンのドラムセットを見る方が一度は目を疑うのが、クラッシュシンバルの位置の高さ。通常はドラマーのひじ上程度の位置に収まっていい感じに打つことができるシンバルが、ジョンのドラムセットではその遥か上、手を伸ばして届くか届かないかの位置です。
そのハイポジションから豪快にスティックを振り下ろす姿は、ライブパフォーマンスとしてのバトルスの魅力の1つであり、ファンの間では語り草になっています。そして、そのような特殊な組み方をしているドラムセットから繰り出されるのは、緻密で細かいリズムワークなのです。